beat sb hollow

ただひたすらに戯言を

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HERO 3話【長編】

今までのお話し

HERO 1話

HERO 2話
HERO 3話

ここからおかしくなった。
まるで時が飛んでしまったよう。
全ての始まりの場所。

また、目覚めた見知らぬマンションに戻ってきた。

入り口に入るとエントランスでまたあの紳士が軽く頭を下げて挨拶をしてきた。

エレベーターに乗り、20階のボタンを押す。

・・・いま、あの紳士は「お帰りですか?白鳥さま」と言った。

確かに俺の方を見て「白鳥さま」と。

白鳥・・・?誰だ?

人が帰ってきているかもしれないので、部屋のドアの前に立った俺はドアホンを押した。


「はい」


・・・・・!


女の声?

女性だったのか?この部屋の主は・・・と考えていたらドアが開いた。
出てきた女性は、俺の顔を見るなり言った。


「何だ・・・。鍵忘れたの?」


この女性は俺を知っている!?
いや、正確には俺の今の姿を。

いろんな戸惑いがあったが、とりあえず一回押さえて部屋に入った。

「どこに行ってたの?会社の方にも居なかったらしいじゃない。今日はお父様のところに顔を出さないといけなかったんでしょう?紹介相手が来ているのにあなたが全然来ないから怒っていらしたわよ。」

と、まくしたてるその女性を俺は半ばほうけた様に見ていた。

細くて身長が高い、目鼻立ちもくっきりして、まるで・・・テレビの中でしか見ないような人だな。

「聞いてるの!?仁くん!」

と強く言われたところでハッと我に返った。
この人は知っている・・・!

俺は、ゆっくりとソファーに腰をおろし、相手を見つめて口を開いた。

「まず・・・聞きたい事がいくつかある。」

「なによ。いきなり。」

「まず俺はキミの知っている仁くんじゃぁない。・・・俺は・・・誰なんだ?」

しばらく唖然とした彼女は、声をたてて笑い出した。

「今度は何の作戦なの?それは。」

「そうか・・・。じゃぁ、まずは茶化さないで最後まで話を聞いて欲しい。」
と言うと、彼女は何かただ事ではない空気を察したか、真顔になってこちらを見つめてきた。


俺は、起きてから今に至るまでの事、夢の中の事を順を追って丁寧に説明した。


話し終わった後、しばらくの沈黙を経て彼女は口を開いた。

「・・・・そう。ちょっと信じられないけど、今の間に私もいくつか違和感がある。」

「・・・違和感?」

「まず第一に、今のあなたの雰囲気や話し方は、あまりにも今までのあなたとは違いすぎる。確かにまるで別の人みたい。何て言うか・・・発している空気感がもう違うわ。」

さっきまで茶化していたとは思えないほど、真剣にまっすぐに俺の目を見て話している。

あまりに強い眼差しに若干気圧されそうになりながら俺は言った。

「俺は、キミが言うその俺自身がわからないんだ。そんなこんなで全くわけがわからない状態なんだが、とりあえずキミの知る俺の全てを教えてくれないか。」

長い黒髪をかきあげて、しばらく窓の外を見てから彼女は話し始めた。

「わかった。私もわけがわからないけど、とりあえずざっと言うわ。あなたは・・・」



何か俺の知っている事がないか、一言一句も逃さずに聞いた。
結果・・・おどろきだ。何一つとして共通点もない。

聞いた事を頭の中で整理する俺に彼女は言う。

「単なる記憶喪失・・・でもないんだよね。全く別の誰かの記憶がある・・・と。」

「そうだ。ただし、俺にとっては別の誰かでなくこっちが俺だ。」

「じゃあ、今度はその今のあなたの事を教えて。」


「わかった。まずは・・・」
俺は、生まれてから今までの事をかいつまんで説明した。



話し終えた俺と彼女は、しばし無言で宙を見つめた。
そして、とりあえず「今の俺」と「過去の俺」を整理してみる事にした。

まず今の俺。
名前は「白鳥仁」。
東京生まれの東京育ち。
年齢は18歳。1994年生まれ。
T大学の1年生。
この部屋で1人暮らしだが、毎日どこかで遊んでいてほとんど帰ってこないらしい。
親は「白鳥グループ」社長。1代で築き上げた事で有名なとんでもない大企業だ。


過去(今の俺には現在の俺だが)の俺。
名前は「田中純」。
新潟生まれで20歳の年に東京へ出てきた。
年齢は32歳。1978年生まれ。
いろんな職を経て現在は印刷会社の平社員。


こんなところだ。
全く接点はない。

目の前にいる彼女は「真由美」というらしい。
少々疲れた顔で真由美は言った。

「これだけ聞いても本当に仁くんとしての記憶は全く思い出せない?ウソじゃないよね。」

・・・まぁ、信じられる訳はないよな。それどころか、いきなりこんな話を聞かされてもこんなに冷静にしていられる彼女に俺は驚いているけど。


俺は、帰りに買ってきたタバコをポケットから取り出して言った。
「この部屋は・・・灰皿どこにあるかな。」

少し笑みを浮かべた彼女は、首を振りながら答えた。
「仁くんは・・・タバコは吸わなかったわ。まぁ次期社長って事で口うるさく素行なんかも言われてたからね。昔から。」

「そうか・・・」俺は火をつけた。
さっき飲み干した空き缶を灰皿にしようか。

瞬間、電気が走ったようにある事に気づいた。


「・・・・・!ちょっと待てよ。」

彼女は目を丸くしてこっちを見る。
「なに?」

俺は早まる心臓の鼓動を押さえながら話し始めた。

「さっき仁は1994年生まれの18歳と言ったな。」

「そうよ。間違いないわよ。」

「そんなワケないじゃないか!だって今は2010年だろう。」


びっくりした顔をこちらに向けて彼女は言った。

「・・・?今は・・・2013年じゃない。何を言っているの?」

と言って、新聞の日付を見せてきた。


・・・2013年?どういう事だ?


俺の最後の記憶、あの女の子を助けて事故に合った日は、確かに2010年4月22日。
忘れもしない俺の32回目の誕生日だったハズだ。

年代までも違ってるってのか・・・!

俺は考えをまとめる事もできずに、ただただうつむいていた。

「もうよくわかんない。冗談言ってるんじゃないんだよね?」
真由美に言われて俺は顔をあげた。

「そういえば、鍵を持っていたってことは俺とキミは付き合っていたのかい?」

不思議そうに首を傾け、彼女は言った。

「本当にそんな事もわかんなくなってるのかぁ・・・。そうよ。正確に言えば、いいトコの子供同士で勝手に親に決められた許嫁ってヤツね。今どきマンガみたいでしょ。だからあなたの事は小さい頃から知ってるわ。」

自分の事を忘れられてるなんて絶対にショックだろうに、彼女は最後に笑顔を見せた。
精一杯の強がりなんだろうか。

ちょっとすました高飛車な女だと思っていたけど、こんなかわいい顔もあるんだな・・・と思い、少し俺も口元が緩んだ。

でも、よく見るとそうとう疲れた顔をしている。
無理もない。彼女にしてみれば、きっといつも通りに仁に会いに来ただけなのに、知らないって言われてんだからなぁ。

「こんな美人な彼女がいるのに思い出せないなんてな。ごめんな・・・。いきなりこんな事になってわけもわかんないし疲れたろ?」

こっちを向いて真由美はクスッと笑った。

「驚いたわ・・・やっぱり別人ね。あなたの口から私を気遣う言葉が出るなんてね。ありえないわ。」

俺は驚いて返した。

「だって・・・彼女なんだろう?ナイーブだって言ったって、全くないって事もないだろう。」

宙を見つめて何かを思い出すように真由美は言った。

「ナイーブ?そんな言葉とはほど遠いわね。彼は・・・白鳥仁はどうしようもない男よ。きっと表立っては言えないけど、誰もがそう思っている・・・。」


と、言いかけて不意に真由美がこちらを見た。


「やっぱり・・・事故の・・・影響かもしれない。」


・・・?


「事故・・・って、夢か現実かわからないあの事故がかい?」
意味もわからず俺はきいた。

何かを確認するように口の中でブツブツ呟いてから真由美は言った。

「そうじゃない。あなたは・・・白鳥仁は3年前の4月22日に事故に会っているの。結構な大事故で、あなたはそれで生死をさまよう大ケガをして病院に運び込まれた。大手術の上に一命をとりとめたのよ。」



・・・なんだって!!



考え込む俺に真由美は言う。

「でも、手術は無事に成功。後遺症もないと聞いたわ。しかも、その影響が3年も経つ今になって出る事なんてあるのかしら・・・。とは言っても、今のあなたは白鳥仁とは別人格すぎる。記憶が無くなったって、そこまで見事に人格が変わるなんて信じられない。それが演技でなければね。」

真由美はベッドに座り込みながら深いため息をつく。
「なにはともあれ、このままここであーだこーだ言っていても何も進まない。記憶の混乱をきたしているのは事実みたいだし、主治医の水科先生の所に行ってみましょう。」

俺は立ち上がって彼女に訪ねた。
「水科先生って?主治医がいたのか?」

「そう。正確には白鳥家の主治医って感じかなぁ。昔からそうだったみたいよ。あなたの事故の時の手術も水科先生がやったって聞いたけど・・・。」

困った顔で彼女は言った。
「結局わかることを羅列してみても、あまり手がかりにはならないね。さっぱりわからないまま。」


俺は気を落ち着かせるようにしながら言った。


「いや・・・そんなことはないよ。仁が事故にあったのは今から3年前、つまり2010年。」

きょとんとして真由美はこちらを見る。

「そうだけど・・・。それが?」



タバコに火をつけて、大きく吸い込んで俺は吐き出した。



「さっき話した純の最後の記憶、覚えているか」


真由美はアッ!と言う顔でこちらを見る。


「そう。2010年4月22日、32歳になる誕生日の日に事故にあったハズなんだ。仁が事故に会った日と同じだ。」


二人同時に立ち上がった。


「行こう。水科先生の所へ。やっと1つだけの共通項を見つけたんだ。きっと何かある。」

「うん。白鳥家の依頼ならどんなに忙しくてもすぐ会ってくれるハズだよ。」


ドアに鍵をかけて廊下に出る。
そして俺は彼女に素朴な疑問を投げてみた。

「そういえば、ちょっと不思議に思ってたんだけど、いきなり恋人が記憶がないとか言い出したら普通もっとパニックにならないか?救急車を呼ぼうとしたり・・・または全く信じなかったり・・・キミはなんでそんなに最初から冷静なんだい?」

エレベータが来て乗り込んだ後、真由美が俺の顔を見上げて聞いてくる。

「そういうあなたこそ、結局全く別の病気かもしれないし、おかしくなってしまったのかもしれない。怖くないの?」

それもそうだなと思いつつ、俺は答えた。

「でも、このまま自分が何者かわからないまま、わけもわからないままでいる方がよっぽど怖い。結果がどうであれ、真実がわからないと気が済まない。はっきりと助からない病気だって言われたほうがまだマシだ。」

エレベーターが1回で開く。

エントランスで紳士が「いってらっしゃいませ。白鳥さま。」と声をかけてくる。

今度は俺は「ありがとう。行ってきます。」と返した。

フフッと笑う彼女が言う。

「周りを常に見下していたあなたがキチンとした挨拶なんかするもんだから、あの人ビックリして固まってるじゃない。」

見ると、呆然として紳士は立ち尽くしている。

「18歳の若造のくせに人を見下してた?目上に挨拶もできないクソガキだったのか俺は。」

外に出た彼女の長い黒髪は、陽の光をあびていっそう美しく光っていた。

「そうよ。クソガキよ。どうしようもない・・・ね。でも、記憶喪失なのか別人になってしまったのかわからないけれど、今のあなた・・・悪くないわよ。普通ならば信じられる話しじゃないけど、なぜかあなたの言葉は初めから説得力があった。さすが32歳ね。」

まだ何も解決どころか進んですらいないけど、一緒に行動してくれる人間がいるだけでこうも心のありようは変わってくるものか。

しかし・・・強い子だな。

「さぁ、とりあえず水科先生の所へいこう。」

2010年から2013年までの、空白の3年間も気になる。



「・・・あと、今は2013年なんだろう?」

「そうだけど?」

「じゃぁ・・・俺は32歳じゃない。」


18歳の顔で俺は笑って言った。


「今年で35歳だ。」


つづく
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/09/22(水) 05:28:09|
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