beat sb hollow

ただひたすらに戯言を

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

HERO 4話【長編】

今までのお話し

HERO 1話

HERO 2話

HERO 3話


HERO 4話


俺と真由美はS総合病院の前にいた。

どうやらここに水科先生とやらはいるらしい。
来る道中に真由美が先方に連絡して話をつけてくれている。

「いきなりこれから行くって言って会ってくれるなんて、すごいな。医者って忙しいんだろう?」

並んで入り口を抜け、建物に入る。

「だから言ったじゃない。白鳥っていう名前は、あなたが思っているよりも絶大な力があるのよ。しかもあなたは正当な跡継ぎ。」

立派なロビーっていうか待合室っていうか、広間だ。
真由美はさっさと受付に言ってしまった。

しかし、俺に絶大な力とか言われても・・・さっぱり実感もなにもねぇからなぁ。

「こっちよ!」

真由美に促されて俺は急いで後を追った。

女性が先頭に立って案内してくれている。
そしてエレベーターに乗り込んだ後、その女性が何やらパスワードを打ち込んだ。

エレベーターでパスワード?

ピッという音とともにエレベータは下り出す。
パネル表示上はB2までしかないのだが、エレベーターは止まる気配もなく、そのまま下りて行く。

「いったい何階までいくんだ?」とつぶやいたら、

「先生のいる研究施設は白鳥様もご存知のように、表上は存在しないことになっていますので・・・地下5階にあります。」
と女性が答えてくれた。

ご存知ねぇよ。

まぁ白鳥はご存知だったらしいな。
何か普通の医者を想像していた俺は、とんでもなく場違いな所に来てしまったような気がしてきた。

エレベーターは止まり、どうやらB5に着いたようだ。
無機質な廊下を抜け、厳重なドアの前に立った。

【第2研究室】と書いてある。

これでもかというくらいに何回もIDカードを差し込み、分厚いドアを開けていく。
どんだけ厳重なんだ・・・これ?

「こちらでございます。どうぞ。」

最後のドアを開け、彼女は中へ入るよう促した。
俺と真由美は目を合わせて、中へ入った。

奥へ進むと、会議室みたいな部屋があり、その中のドアの1つから白衣の男が出てきた。
「わざわざご足労願いまして。どうぞおかけ下さい。」

にこやかに笑って席を勧めてきたので、素直に従った。

まじまじと見つめていると、真由美が口を開いた。
「水科先生、お久しぶりです。今日はご無理を言って申し訳ありません。」

「いえいえ。真由美さんもお久しぶりですね。」
と、口を開いた水科は、途中でハッとした顔をしてかしこまった。

「大体簡単な話は電話でお聞きしました。えーと・・・仁さんは私の事も覚えてらっしゃらないワケですな?」
と、名刺を差し出してきた。


S総合病院 【第2研究室】 室長 水科太郎

と書かれている。


「ここはえらく厳重なところにあるんですが、何をしているところなんですか?」
率直に聞いてみた。今一番疑問に感じていることだ。

水科はにこりと笑った。
「大した事はないんですよ。ここは診療施設と違って、いろいろな研究を行っているところなのです。色々と外に漏れると面倒なことも多いのでね・・・。一応関係者以外は入れないようになっています。」

「あなたは見た所、結構お若いようですが、研究室の室長とはすごいですね。」
これも素直な俺の感想だ。

「いえいえ。若いとは言っても33歳です。それに、別に偉いワケでもなんでもなく、ただの研究員なのですよ。」

謙遜はしているが、確実に自信は伺えるな・・・。
まぁ、そんな事はどうでもいい。

と、思っていたら、向こうから切り出してきた。
「では、本題に入りましょうか。まずは具体的に今の状況を教えて下さい。」

俺は、目を覚ましてからの今までの経緯、白鳥仁としての記憶が全くないこと、全てを順を追ってゆっくりと説明した。

「・・・というのが現状です。全く意味もわからないままです。」

身を乗り出して片時も目をそらさずに聞いていた水科は、腕を組んで目をとじ、じっと何かを考え始めた。
そして何かに納得するように頷き、こちらを向いた。

「まずは、2010年に起こった事故の際の手術・・・これは間違いなく成功でした。その後も経過を見てきましたが、後遺症もなかったハズですし、つい先日までは普通に白鳥仁として行動していた・・・・・そうですな?真由美さん。」

真由美は一度間をおいてからゆっくりと答える。
「それは間違いありません。あの日仁くんはお父様に呼び出されて、朝から会社に行く予定があったので、それが終わる頃に部屋に行くことになっていました。そしたら・・・いつまでたっても仁が来ないが何か知らないか、とお父様から連絡があったもので、部屋に行ってみたんです。そして待ってたら・・・」

「帰ってきたのは自分が誰かわからないとか言う俺だったワケだよな。」俺は言った。

「うーむ・・・」水科はうなりながら再び目を閉じ、何かをブツブツ口の中で呟きはじめた。

「考えられる要因としては、やはりなんらかの記憶障害が起こっているという事しかないですね。あの事故のときは脳をかなり損傷する重症でした。手術自体は完璧に終わったのですが、人間の脳には今だ不確定な要素も大きいのです。ただ、あなたが白鳥仁である事は間違いのない事実です。」

聞いている限り、やはりそういう見解で間違いはないのだろうが、やはり解せない。

「俺が別の記憶を持っている事は話しましたよね?記憶をなくすならともかく、そんな事ってあるのでしょうか?俺が白鳥仁ならば、今の俺を占めている【田中純】って誰なんだ?そして記憶の中にある田中純としての事故は、この件に関係しているんじゃないか?」

俺は自然と語気を荒げて一気にまくしたてた。

「まぁまぁ、少し落ち着きましょう。」
そういって水科は電話をとり、何やら指示を出した。

すぐに奥のドアが開き、飲み物が運ばれてきた。
コーヒーの香りがたちこめる。

「おっしゃる事と疑問はよくわかります。」
コーヒーをすすり、間をおいてから水科は話し出した。

「私は小さい頃から、仁さんの主治医と申しますか、心理的なカウンセラーも努めておりました。」

「精神的な問題を抱えていたんですか?」俺は言った。

「いえ。別に病気だとか、そういうことではない。ただ、小さい頃からあの大企業の跡取りとして期待されてきたプレッシャーは尋常ではない。それゆえ、彼にはいろいろな精神的ひずみもありました。特にここ数年は、決して素行のよい生活ではなかったようです。その辺は真由美さんのほうがお詳しいかな?」

話しをふられて真由美は少しびっくりしたような顔をしたが、話し始めた。
「そうですね。でも、結局は彼の苦悩は彼にしかわからないと思いますし、それは言い訳にすぎないと思います。自分が苦しいからって人を傷つけていい言い訳にはならない。警察にお世話になったりも結構ありましたが、結局は親の力でなかったことにするだけ。彼は甘えていたんだと思います。」

一回間を置いてから・・・「それに・・・。私の存在なんてもう彼にはないも同然でしたから。」

その横顔は心なしか寂しそうに見えた。

「ふむ。」
水科が口を開く。

「はたからみたら自分勝手で粗暴に見えた彼にも、きっと良心の呵責というものや葛藤はあったのでしょう。彼はいつも言ってました・・・・・俺なんかいなくなればいい。と。」

水科は紙にイラストのようなものを書き出した。
それは、人間の脳のようだった。

「手術の際は、ここの部分を著しく欠損しておりました。専門的な話しは一切省きますが、ようするにここには人間の人格を司る働きがあるとされています。手術自体はうまくいき、術後も問題はなかったのですが、ここにきてなんらかの作用が働いた可能性も否めない。」

さらに水科は続けた。

「これは私の導き出した推測なのですが、彼は別の人間になりたかった。その強すぎる欲求と、この人格中枢の不完全な部分とが作用しあって、全く別の人格を作ってしまったのではなかろうか?」

俺はここで口をはさんだ。
「なんとなく言ってる事はわかります。ですが、田中純っていう人間は誰なんでしょう?空想だけでここまでリアルな他の人生って作れますかね?信じられませんよ。それよりかは、同じ日に事故にあった田中純の脳を移植して、その記憶が蘇ったっていうストーリーの方がしっくりきます。どう考えても同じ日にたまたま事故にあった記憶が関係ないとは思えない!」


ふーっと大きな息を吐き、水科はじっとこちらを見据えた。

「結論から申しますと、2010年4月22日に【田中純】という人物が事故に合った記録はございません。これは、さっき調べましたので明らかです。ここには、一応世界のあらゆる情報を調べる設備は整っておりますから。それに、他人の脳を移植するなんて事は、現在の医学ではまず不可能です。」

そこまではっきりと言われると俺は返す言葉もなくなってしまう。
でも、やはり解せないというか、納得できない。

それを見越してか、水科はさらに説明を続けた。
「確かに、全く新しく作り出したにしては生々しい記憶です。おそらく田中純というのは仁さんの親しい友達、もしくは憧れた人、ひょっとしたら読み物や映画などの実在しなかった人物かもしれない。とにかくなにかしらのモデルがあり、そういった普通の人生への憧れが強く反映された結果想像された人物ではないかと推測されます。きっと、自分の事故の日と彼の事故の日が一緒だったのは、無意識につじつまをあわせる為に作られたストーリーでしょう。」

俺は思わず机を叩いていた。

「そんな事を言われても納得できるワケがない!俺には一緒に住んでる彼女もいた!早くに親を亡くしてしまった俺には、唯一の家族同然だった!彼女の肌の温もりだって覚えている!それも全部空想だってのか!」

「ちょっと仁くん、落ち着いて。」
真由美が肩に手をかけてきてハッとした。

とりあえず座り直した俺に、水科は落ち着いた表情のまま言った。

「そういう事例は、数多くあります。想像するだけでそれが真実だと思い込み、ときには体に影響をきたす事すらあるくらいです。きっとあなたは今までの痕跡すら無くなるくらいに、他人になる事を欲していたのでしょう。それが不完全だった脳に作用した・・・としか思えません。」

「一応、田中純なる人物が実在するのかどうかは、こちらで調べてみましょう。とりあえずはお父様にもこちらの方でご報告はしておきますが、一回お会いになられた方が良いでしょう。」

納得はできない・・・が、なんの専門知識もない俺には反論することすらできない。

「今日はとりあえず帰りましょう・・・。疲れたでしょう。」
真由美が優しく声をかけてくる。

そうだな。
いくらでも食らいつきたいとことだけど、きっとこれ以上の話しはいま出てこないんだろう。
それに・・・気遣うようにこちらを見つめる真由美を見ていると、なんだか悪いような気がしてきた。

俺は「わかりました。とりあえず、様子を見ます。」と言うのがやっとだった。

水科もいくらか安堵したような表情で言った。
「もちろん、原因は究明します。いろいろと検査をしてみましょう。今日はもう遅いので、明日・・・そうですね・・・お昼頃で結構です。こちらにいらっしゃって下さい。ただ、先ほど申し上げた見解で、ほぼ間違いはないと私の経験上は、思います。」

とりあえずもうここを離れたかった俺は、席を立ち、一礼して立ち去ろうとした。

「あっもう一つ」

水科が後ろから声をかけてきた。
「そういえば、記憶以外に、身体的になにか問題や変わったことはなかったでしょうか?」


・・・?

「身体的にとは?」

「あ、いや、最近ケガをされたとか、誰かとケンカしたとか・・・そういうことはなかったですか?」
さっきまで冷静だった水科が、何故か少しあわてるように言った。

「何もないですね。ケガもしていない。しいて言えば今まで吸った事がなかったらしいタバコを吸って少しクラクラしたくらいです。」
俺は答えた。

が、何かが引っかかる。

さっきまでの質問や口調と違う。

そうだ。
さっきまでの事務的な感じと違って、今のは本当に彼が確かめたかったことを、あわてて確かめてきた感じだ。
記憶の話ししてんのに、ケガやケンカってなんの関係があんだ?

まぁ今日はもいいや。

俺は「じゃ、明日の昼に伺います。今日はありがとうございました。」と言ってエレベーターに向かって歩き出した。

エレベーターの前にはまたあの女性が待っていてくれた。
「お疲れさまでした」と、深々とお辞儀をし、ボタンを操作する。

「あそこはずいぶん厳重なつくりになっているようですが、何をしているのですか?」
俺は聞いてみた。

「はい。私も詳しくはわかりかねますが、脳神経や心理的な現象の研究室だと聞いております。」

脳神経・・・か・・・。

****************************************

二人の後ろ姿を見送った水科は、ため息をつきながら腰を降ろし、パソコンの画面を見ながら呟いた。

「まさか・・・田中純がな・・・。」

そして電話をとりあげた。
「もしもし?私です。少々問題が起きました・・・そうです、白鳥仁の事です。・・・そう。・・・そうです。それで、【HERO】はどうやら遅れているようです・・・えぇ、そのようにします。」

電話を置き、深いため息をつく。

「・・・なかなか・・・思い通りにはいかないものだ」

****************************************

エレベーターで1階につき、外に出るとあたりはもうすっかり暗かった。

「やっと外の空気すえたねー!地下ってやっぱりいい気分しないなぁ。」
大きく伸びをする真由美を見て、俺は微笑んだ。

「なに?何かおかしかった?」

「いや。キミは言葉遣いもしっかりしてるし、ずいぶんと上流階級のお嬢様みたいだなと思っていたんだけど、そういう・・・いわゆる普通の女の子みたいな表情や言葉も出るんだなと思ってさ。」

彼女はちょっと恥ずかしそうな顔で言った。
「え・・・。そんな感じだった?たぶんアナタのフランクな感じが少しうつっちゃったのかもしれないわ。変?」

「いや・・・そっちの方がいいよ。少なくとも俺はかたっ苦しいのは息がつまる。本来不意に出る感情ってのは、もっと素直なもんだ。」

少し嬉しそうに笑った後、すぐに真面目な顔になった真由美が言う。
「でも、結局は記憶的な障害って事には間違いがなさそうね。どうするの?これから。」


初夏とは言え、外は少し肌寒かった。

俺は少し無言で、考え事をしながら歩いた。
真由美は何も言わずに、黙って隣を歩いていた。


・・・なんだな。


「え?いま何て?」真由美が心配そうに俺の顔を覗き込む。

「やっぱり俺は白鳥仁なんだな。結局、そこを認めてスタートするしかないみたいだ。」

立ち止まって、空を見上げてつぶやく俺の背中に真由美はそっと手を置いた。

「でも、それでいいの?って言ってもしょうがないのかもしれないけど、家族とまで思っていた彼女がいたんでしょう?」

真由美の方に向き直り、俺は軽く微笑んで言った。

「本当に空想だとしたら、こっけいな話しだよな。空想の彼女にそこまで入れこんでいるなんて、よっぽど気持ち悪い野郎だ。そこまでするほど、俺は今の俺が嫌いだったんだろうか。」

場の空気を和まそうと俺は少しおどけて言ったみたが、真由美は真剣な顔で答えた。

「そんな事はないよ。そこまで人を好きになれるなんてうらやましい。たとえそれが現実でも空想でも、その気持ちは本当だと思う。私は今まで親たちの言うがままに生きてきて、人を好きになった事なんかない。それに前のアナタは常に冷めていて、人を道具みたいに扱って、きっと本当の仲間なんかいなかったと思う。今のアナタは、全てに一所懸命って感じで・・・ひたむきで・・・少し羨ましい。」


「・・・ありがとう。」
彼女の頭に手を置いて俺は言った。

しっかりしてるってったって、彼女はまだ18歳なんだ。
そりゃぁいろんな葛藤やこれからの道への不安などあるだろう。
きっと今まで感情を表に出さずに、ずいぶん無理をしてきたんだろうな。


「まぁまだ18歳なんだしさ、その気になればこれから何だってできるさ。だから、そう簡単に人を羨ましいなんて言うなよ。あ、俺も18歳か。」

顔を見合わせて俺たちは笑った。
「とりあえず、俺も白鳥仁として生きれるようにがんばってみるよ。記憶が戻ってくるかもしれないしな。」

「うん。私もできる限り協力するから。一応両親公認の許嫁だから、アナタの部屋にずっと居ても大丈夫だしね。」
明るい顔になった彼女が言った。

「え?ずっと居ても・・・?夜も?」
俺はちょっと戸惑いながら言った。

「そうよ。そもそも部屋に勝手に入るくらいなのに、2人の間に何もなかったと思ってるの?」
彼女は少しいたずらっ子のような目つきで言ってくる。

「いや、あの、まぁそうかもしれないけどさ。いまの俺的にはまだちょっと日が浅いしさ・・・あと、ごめん!やっぱり空想だと思っても、どうしても俺はまだ久美子の存在を忘れることはできないんだ。」

なんでいい歳こいてこんなドギマギしてんだ俺は。
あぁ、でも18歳だったならいい歳こいてねーのか・・・とかワケのわからない事を考えている俺をみて、真由美は吹き出した。

「アハハハハ」

・・・・・へ?

すっとぼけた顔をしているであろう俺に真由美は言った。
「冗談よ。アナタは私に手は出さなかったわ。他に何人も女の人がいたみたいだし、興味なかったんじゃない?アナタがいやならば、夜は帰るわ。」

街頭に照らされた横顔は、笑ってはいるが少し寂しそうに見えた。

「なんだよ。まぁでも良かったよ。これで変な気を使わないで済む。でも、できればずっと一緒にいてくれないか?俺は今1人じゃなにもわからない状況だし、心強いよ。」
俺は真由美の目を見て言った。

「え・・・。」
一瞬意外そうな顔をした後、また笑顔に戻り、真由美はいきなり腕を組んできた。
「よしわかった。できる限り一緒にいるわ。そして周囲からしたら私たちは許嫁同士よ。それなりの振る舞いはする事。久美子さんには悪いけど、そこはとりあえず現状は割り切ってね。カタチだけでいいから。」

「うん、わかった。」

「明日からは、白鳥の家にも1回帰った方がいいだろうし、大学にも行かなきゃね。周囲に色々と詮索されると面倒くさい事になるだろうし、大体こんな話し誰も信じてくれないでしょう。だから、なるべくボロが出ないように私が全部教えてあげるから。まぁ、少しづつやっていきましょう。フォローするから。」

嬉しそうに話す真由美を少し不思議に思った俺は聞いた。
「なんか嬉しそうだな。面倒に巻き込まれてイヤじゃないのか?」

俺の顔を見上げながら真由美は言う。
「う~ん。不思議とイヤじゃないんだよね。逆に、淡々とこのまま過ぎるハズだった日々がある日急に変わっちゃった感じというか・・・なんか今ワクワクしてるかも。こんな気持ちになった事ないの。」

「ワクワク?」

「そう。今までは決められた事をそつなくこなして、周囲の期待に応えるように生きていって、そのまま人生なんて終わっちゃうものだと・・・なんとなく思ってた。それが当然で、そこには不確定要素なんてなかったの。」

うつむき加減で真由美は続けた。
「でも、今はどうしていいのかわからなくて、これからどうしたらよいのかを考えてる。こんなの初めてだけど、なんか・・・なんていうか。」

俺は彼女の頭をポンっと叩いた。
「もういいよ。」

「人生なんか不確定要素ばっかなんだ。予定通りに事が進む方が少ないよ。いつまで生きれるかわからないし、どこまで自分ができるかわからない。だから、みんな一生懸命生きるんだろ。でも、俺の存在が重荷じゃなくて、そうやっていろいろと前向きになれるきっかけになってくれたってのは嬉しいよ。正直周囲からしたら疫病神みたいな存在だと思ってたからな。」

少しの間の後、満面の笑顔で彼女は言った。
「すごいね。本当に18歳の言葉とは思えないよ。空想だとしてもすごいと思う。何か説得力が違うもの。じゃあ、明日からよろしくね。一緒に頑張りましょう。」

「あ、でも、一緒にいてもいやらしい事はなしだよ。ふふ。」

「当たり前だろ。」

いきなり俺もこんな事になって、考えてみたら本当に彼女に救われているな。
彼女ってよりは、妹みたいな感じか・・・まぁ俺の意識が30代なんだから18歳相手にしたら無理もないけどな。


うん。・・・そうだな。

とりあえずは、不確定要素があろうとなんだろうと、俺はいま生きている。
今できる事をやっていかなきゃいけないんだな。

まずは白鳥仁を知る事。
そこからまた新しいものが見えてくるかもしれない。

「どうしたのー?」
マンションの前に着いた彼女は俺の方を振り返った。

「じゃあ、今日はどこかで外食して帰るか・・・なんか、俺、金持ちみたいだしな。」
白鳥仁の財布を取り出した俺はニッコリ笑った。

真由美も笑いながら言う。
「いいね。今のちょっと仁くんっぽかったよ。どこにする?よく行くSホテルに予約とる?」

ホテル・・・か。

「いや。この近くで昨日気になったラーメン屋がある。そこに行こうぜ。」

きょとんとする真由美をひっぱって歩き出す。

「ばっかおめぇ、どーせあんな汚い店なんて入った事もないんだろうけど、あのジャンクな感じのごってり感を知らないと世の中損するぞ。」

クスッと笑った真由美は、腕を組んできた。
「よし!じゃぁごちそうになります!でもそれじゃ財布のお金全然減らないねー。」

「アホか。金なんて7~800円も払えばいっくらでもうめぇもん食えるわ。」


歩きながら、色々と考えた。

これからのこと。
いままでのこと。
これからすべきこと。
俺の人生。

とりあえず、まずは何にしろ、【知る事】だ。
その上で、俺の今後は俺が決める。

少なくとも、俺が白鳥仁であれどうであれ、【田中純】の事と【久美子】の事だけはきっちりと調べないと、俺は先へ進めないな。
人格は空想にしても、存在している人物ならば、なんらかの関係があったとみるべきだろう。

それにしても・・・ひっかかるのは、去り際にあわてて聞いてきたあの水科の言葉だな・・・。
どうってことないのかもしれないけど、何かが不自然なんだよなぁ。

まぁ明日また行くしな。
向こうでも【田中純】は調べると言っていた。


考え事をしていると、真由美が顔を覗き込んできた。
「何か難しそうな顔をしているけど、どうしたの?」

「いや・・・なんでもないよ。」

心配そうな顔つきの真由美を見るのは何度目だろう。

「ありがとうな。」

「え?なに?」

「いや、さぁ入るぞ。」

俺は見るからに立て付けの悪そうな戸を、ガラッと勢いよく開けた。

「あーい!いらっしゃーいい!」


やっと・・・久しぶりに慣れた空気に帰った気がした。


つづく
スポンサーサイト

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/10/18(月) 04:11:45|
  2. HERO【長編】
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<HERO 5話【長編】 | ホーム | 夏休みの終わりに>>

コメント

暇じゃないけど・・・(笑)
じっくり読ませていただきました。
良い感じで進んでますね。

次も楽しみにしていますね。

夜はすっかり冷え込んできました、どうぞお体大切にね。
  1. 2010/10/18(月) 14:14:16 |
  2. URL |
  3. 一恵 #-
  4. [ 編集 ]

レス

一恵さん→なかなか進みませんけどね(笑)貴重な時間を割いていただきありがとうございます。
寒くなってきましたなー。
  1. 2010/10/24(日) 01:22:25 |
  2. URL |
  3. 平 #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://donb.blog48.fc2.com/tb.php/249-fe7f68ea
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

take-hiraoka

Author:take-hiraoka
Dog on Backseat

Twitter

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

最近のコメント

最近の記事

カテゴリー

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。