beat sb hollow

ただひたすらに戯言を

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HERO 5話【長編】

今までのお話し

HERO 1話

HERO 2話

HERO 3話

HERO 4話



HERO 5話


俺は今、泣きじゃくっている女の子の目の前に居る。

泣いているその子を背に俺はそこを立ち去った。
背中には涙まじりの悲痛な声が届いてくる。
だが、それもくだらない。
興味がないことだ。

場面は変わり、今度は・・・これは学校?か。

数人の男と一緒に歩いている。
右にも左にも、顔色をうかがって話しをしてきているヤツばかり。
内容も当たりさわりない、くだらない事。

俺は、ただただイライラしている。
そして、そのウチの一人の頭を思いっきりはたいた。

でも、そいつは怒らずに愛想笑いを浮かべている。

と、そのとき後ろから唐突に怒った口調で誰かが話しかけてきた。
「オマエいつまでそんな風にしてるつもりなんだ」

俺は振り返り、その顔をみた。
小柄で眼鏡、おとなしそうなその顔。

いつもそうだ。
おまえはいっつもそうやって真っすぐだな。

「わかってるよ」

俺はそれだけ言って通り過ぎた。

久々に部屋に帰った。

真由美が居た。

俺は寝転がって雑誌を読む。

「仁くん、聞いてる?お父様が・・・」

うるさいヤツだ。
顔をあわせればあーだこーだと。

所詮親父が気になるだけだろう。
あとで何か言われるのがイヤなだけだろう。

「・・・私、帰るね。明日、会社にだけは顔を出してあげてね。アナタのお父様だって、アナタの事を考えているのよ・・・。」

がちゃりとドアの閉まる音がした。

どうでもいい。

お父様が心配・・・?俺の事を?笑わせるな。

さっきから猛烈にアタマが痛い。

今日はもう寝るか・・・。
とりあえず明日は会社に顔を出さないとな・・・今はまだ・・・今はまだ俺はやらなきゃけない。

俺は・・・俺は・・・・。



「・・・くん」

「・・・仁くん」

「仁くん!」


俺は目を開けた。
朝日がまぶしい。

目の前には真由美の顔がある。

どうやら・・・夢をみていたようだ。

「とりあえず起きて!今日はいろいろとあるのよ。」

俺はまだ働かない頭でぼーっとしながら起き上がり、ソファーに座ると、目の前にコーヒーが湯気をたてて置いてあった・・・どうやら真由美が入れてくれたらしい。

タバコに火をつけ、コーヒーをすすりながら、俺はさっきの夢の内容を思い出していた。

とてもリアリティのある夢だ・・・。
気になるのは、夢の中では俺は完全に白鳥仁だったって事だ。
実際にわかるワケではないが、きっとあれは白鳥仁のリアルな記憶で間違いないだろう。

これは「思い出した」という事なんだろうか・・・。
行動だけじゃなく、気持ちも自然にシンクロしてたな。

「どうしたの?まだ頭が寝ているんじゃないの?」

目の前の真由美は、既に外出仕様の準備ができているようだ。

昨夜は俺はTシャツにパンツで寝た。
ちゃんとパジャマあるのにって言われたけど、俺は寝るときはこのスタイルでないと眠れない。

真由美はなんかサラッサラの手触りの良さそうな生地のねまきに着替えていた。
「ねまき」って言ったら苦笑されたけどな。

俺はベッド、彼女は下に布団を敷いて寝た。
正直ちょっと緊張した・・・けど、よほど疲れていたみたいで、いつのまにか寝ていたんだな。

そして今だ俺はTシャツとパンツの情けない格好のまま、ソファーにもたれている。

真由美は・・・見事な長い黒髪を後ろでまとめ、前髪もきちっと奇麗にセットされている。
スーツみたいな格好だけど、少しカジュアルな・・・うとい俺には何て言ったらいいのかわからないが、相変わらず雑誌の中にいる人みたいだな。

昨日は帰ってから、部屋を物色した。

なんせこれから暮らす自分の部屋なのに、どこに何があるのかも、どんなものを持っているのかもわからないのだから大変だ。

差し当たって着れそうな服をピックアップした。
とても俺が着ていたと思えないような服は、見なかったことにした。
スーツやらジャケットやら・・・肩が凝りそうだ・・・後でもっとラフな服を買ってこよう。

引き出しの中に、無造作に現金とカードやらが突っ込まれていた。

現金は全部で45万ちょいあった。
当分これで足りるだろう。

家賃も公共料金も携帯やなんかも、親の口座から自動的に引き落とされているらしい・・・絵に描いたようなボンボンだな・・・。

真由美からも、学校や周囲の人間関係や家の事、いろいろと聞いた。
大体は頭に入れたつもりだが、後は実際に触れ合って覚えて行くしかない。もしくは思い出すのかもしれないな。

シャツを着てジャケットを羽織り、鏡の前に立ってみた。
これが一番マシに思えた格好だ。
ブランドなんかわからないけど、どうせめっちゃくちゃ高いんだろうな。

後ろからのぞき込み、真由美が笑う。
「うん。いいんじゃない?じゃ、行きましょ。」

「あぁ。」


外はいい天気だった。
初夏の日差しがまぶしい。

「まずは学校に行って、軽く周囲の人間と会話しつつさりげなく中を案内するから、とりあえず話しを合わせててね」
改めて見ると、真由美は姿勢もとてもいいし奇麗だな。
欠点が見当たらない。

「わかった。」と、俺は頷いた。

「仁くんは、あまりちゃんと学校に行ってなかったし、仲の良い友達もほとんどいないハズだから、無口でいて大丈夫よ・・・あ、でも1人だけ・・・」

そこまで聞いて、俺は朝の夢が思い浮かんだ。
「短髪で色白で、目の細い男かい?」

真由美はびっくりしたように目をパチパチさせた。
「そうよ。細田学くん。よくわかったわね!何か思い出したの!?」

「いや・・・ちょっと夢でみたんだ。記憶なのかもな。周囲に人がいっぱいいたけど、俺は誰1人名前も覚えちゃいなかった。ただ、その細田学だけは認識していた。」

頷きながら真由美は言う。
「そうなんだ・・・記憶が少しずつ戻ってくるのかしら・・・。確かに仁くんは周りの人間の名前なんて覚えていなかったかもね。学くんだけは別。小さい頃からの友達よ。ただ、最近は疎遠・・・ていうか、仁くんが避けているみたいだったけど。」

話しながら駅に着いた。

セレブは普段は結構タクシーとかお迎えの車しか使わないのかと思ったら、ヤツは意外とそれを断って電車で移動していたらしい。
俺は、しばらくはとりあえず今までのやり方を変えない方がいいだろうと思っていた。

改札を通って電車に乗る。
今は電子マネーがあるから改札もラクだ。

電車に乗り、俺は夢のなかの感情を思い出していた。

「少なくとも、仁は学を嫌ってはいなかったよ。何か負い目があって避けているような感じだったかな。」

そう言うと、真由美はこちらを振り返って答えた。
「そうね。高校の頃までは、本当に仲が良かったのよ。唯一心を許していた相手なんじゃないかな。私も大学でたまに顔を合わせたとき以外はあまり話さないし・・・何で疎遠になったかまではわからないけれど。」

駅に着きしばらく歩くと、まわりは学生だらけになってきた。

1人、男が話しかけてきた。
「あ、白鳥くん、今日は学校きたんだね。おはよう。」

まぁ、見た目いたってふつーの男だな。

「おはよう」
と、挨拶を返したら、びっくりした顔で見返してきた。

「し、白鳥くん・・・今日は機嫌いいみたいだね。なんか別の人みたい・・・あ、変な意味じゃないよ!じゃ、じゃぁ!」
走って行ってしまった。

「何であんなに変な気を使った話し方をするんだ?同級生なんだろ?」
俺は隣の真由美に聞いてみた。

「うん・・・大体はあんな感じだと思った方がいいわよ。みんなアナタが怖いの。アナタの機嫌を損ねたら、学校にだっていられなくなるからね。実際アナタは気に入らない教授を1人学校から追い出しているわ。もちろん白鳥の名を使ってね。」

俺はもう苦笑するしかなかった。
「絵に描いたような悪者だなぁ。まだ入学して数ヶ月の1年生だろう。そんなくだらねーことをしてたのか・・・そりゃぁ腫れ物に触るようになるワケだな。」

「そうね。だってその気になれば政治にまで影響を与えれるお父様をお持ちなんですもの。それを振りかざされたら怖いでしょうね。」
真由美の顔は笑っていない。

「もう・・・そんな事はないようにしないとな。俺が。」
呟くように俺は言っていた。
記憶がないとはいえ、自分がそんな自分であった事が少し悔しかった。

学校についてからは、色々と真由美と校内を歩き、説明してもらった。

途中何人かと話したが、大体みな同じような感じで、特に親しい人間はいないようだ。
今はその方が助かる・・・か。

真由美と俺が2人でいることには違和感を覚える人間はいないらしい。

「ちょっと疲れたな。一服していいかな。」

そばに喫煙エリアを見つけた俺は、真由美に言ってみた。

「そうね。少し休もうか。」

ベンチに並んで腰をおろし、俺はタバコに火をつけた。
初めて吸った当初はびっくりしていた仁の肺も、もう慣れてくれたようだ。

奇麗な肺をわざわざ汚すこともないのに・・・と真由美にはチクリと言われたが、今は一つでも心のよりどころが減るのはツライ。

煙を吸い込み、空に向かって勢いよく吐き出す。

記憶が混乱しようが、知らないところにいようが、空のあおさは変わらないな。

「昔はどこででも吸えたのになぁ。どんどん限られてくるな。」

と呟いたら、真由美は言った。
「本当にタバコって臭いんだから。限られているくらいでいいのよ。」

・・・もっともだ。

「仁!今日は学校来たのかい?」

後ろから声をかけられた。
聞いた事のある声・・・。

振り返ると、夢の中でみた細田学だった。
声も全く同じだ。

「学くん、久しぶり。」
真由美が笑顔で話しかける。

「真由美ちゃんも一緒か。あれ?仁ってタバコ吸ってたっけ?」

俺はニコッと笑って答える。
「最近始めたんだ。」

例外なくここで学もビックリしたような表情を見せた・・・が、受け答えは少し違った。
「どうしたのさ仁。なんか昔に戻ったような話し方じゃないか!そんな笑顔見たのはもう何年ぶりだろう。」

少し返答に困った俺は何て言うか迷ったけれど、これからは付き合って行かなきゃいけないのだろうし、今の俺のまま答える事にした。

「別に何も変わらないよ。まぁこれからもよろしくな。」

笑って学は答えた。
「数日前にも会っただろう。これからもよろしくって変なヤツだなぁ・・・。でも、最近のオマエはおかしかったし、周囲もオマエを快くは思ってないだろうけど、僕は昔からちゃんと知ってるから。オマエは優しいヤツなんだってね。」

こんなにストレートに言われると照れるな・・・すごいヤツだな学は・・・。
「・・・まぁ・・・ありがとな。今日は急ぐからこれで帰らなきゃならないんだ。」

学はなんか嬉しそうに言った。
「あのさ!またさ・・・絵を見にきてよな。僕またいっぱい書いたんだよ。オマエに1番に見てもらいたいんだ。それと、タバコは体によくないからやめろよ!あと、もうちょっと周りに優しくな!」

一生懸命にしゃべっている学をみていたら、おかしくなってきた。
どんだけ不器用で優しいヤツなんだろう。
仁がこいつに心を開いていたのは、わかる気がする・・・口うるさいお母さんみたいだしな。

「じゃぁ行こう・・・真由美。」

立ち上がって歩き出した。

後ろを振り返ったら、学はずっと手を振っていた。


「じゃーなーガク!またな!」

俺は叫んでいた。


「ガクって?」
真由美が俺の顔を覗き込んで不思議そうに聞いてきた。

「夢の中での仁の記憶とのシンクロでわかったんだけど、俺はあいつと二人きりのときはガクって呼んでいたんだよ。ただ、どうしてわだかまりがあったのかまではわからなかった。」



なんだかんだ話していたら、駅に着いた。

次はまた水科のところへ行かなければならない。
検査か・・・そんなものいつ以来だろうか。

「とりあえず病院へは俺1人で大丈夫だから、夜また落ち合おう。」
俺は真由美に言っていた。

「大丈夫?1人で・・・私も少し用事があるから助かるけど・・・。」

「子供じゃないんだから、大丈夫だよ。」
満面の笑顔で答えた。



もう病院の位置もわかっている俺は、ほどなくしてスムーズに着いた。
しかしでっけー病院だなと思いながら、中に入った。

この間はあまり余裕がなかったけど、外来の患者もすげー多いみたいだな。
受付フロアは人でごった返しているが、さすがは大病院らしく、ざわついた感じはないな・・・落ち着いた雰囲気だ。

俺はまた受付で約束の旨を伝えると、奥から前回案内してくれた女性が出てきた。
「ではご案内します。」

エレベーターに乗り、前回と同じく女性はコントロールパネルの下にある鍵をあけ、中のコンソールにパスワードを打ち込む。

「下の研究室への行き方はアナタしか知らないんですか?」
俺は訪ねてみた。

操作を終えた彼女は、ニコッと笑って答えた。
「私だけではないですが、限られた数人しか教えられていません。」

B5に着き、また前回のように厳重なセキュリティーを抜けて行く。

向かう通路はただただ真っ白で無機質、まるで感情を感じさせない空間。
こんなところにずっといたら気がおかしくなりそうだ。

そしてまた扉の前に立ち、ボタンを押して「白鳥様がいらっしゃいました。」と、彼女は告げる。

扉が開くと、「それでは私は失礼します。」と彼女はお辞儀をして立ち去った。

中へ入ると、水科が待っていた。

「昨日はお疲れさまでした。では、まず一通り検査を始めましょう。」

研究室だろうが町医者だろうが、検査ってのはいつだって気が進まないものだ。
俺はげんなりしながら指示された通りに服を脱ぎ、白衣のようなものに着替え、これから始まる長い時間に頭が痛くなる思いだった。

それからは何やら訳のわからない機材に入れられたり、頭に電極のようなものをつけられたまま質問をされたり、思っていたよりも様々な事をさせられた。

「はい。以上でとりあえず検査は終わりです。私は整理してきますので、着替えてくつろいでいて下さい。」

水科は奥のドアから消えて行った。

着替えてもとの部屋に戻ると、湯気を立てたあたたかい飲み物が置かれていた。
俺は座って一口すすった。

えらくいいニオイのする紅茶だな・・・こんな高級そうな香りの紅茶は飲んだ事がない。
って言っても、缶コーヒーばっか飲んでた俺は、そもそも紅茶なんてあんま知らないけどな。

ガチャとドアが開き、大量の書類を抱えて水科が戻ってきた。

「お待たせしました。それでは検査結果を説明します。」

それからは、レントゲンを貼り出しホワイトボードに説明を書きながら、詳しく丁寧に説明された。

専門用語も飛び出し、俺にはよくわからん言葉も多かったが、何となくニュアンスで理解した。

要約すると、結局身体的な異常は全く見当たらなかった事、脳波的にも異常は見当たらなかったとの事だった。
水科の見解では、やはり昨日言った通り、記憶上の障害であると言う事らしい。

一回座った水科はこちらに向き直って言った。

「問題の【田中純】という人物に関して調べた結果ですが・・・該当する人物は存在しません。」

予想はしていた事だが、俺はショックを隠せなかった。
「田中純っていう名前はたくさんいそうですが、全て調べたのですか?」

水科は力がこもった声で答えた。
「全ての田中純を調べましたが、該当する条件の人物は少なくとも日本には存在していません。」

「日本には・・・?」

「可能性的には、データベースで把握できない世界の小さい国や集落などに居たらわかりませんという意味ですが、そもそも日本で生まれて日本で暮らしていたのであれば、現状外国に居たとしても、データベースで発見できない事はないと思われます。」
淡々と水科は言った。

それからさらにいろんな補足説明がなされたが、俺は肩を落としてうつろに水科を見つめながら説明を聞いた。

やはり・・・田中純の記憶は幻想でしかないのか・・・。

「納得していただけたでしょうか」
最後の水科の声で我に返った。

「納得・・・とは言いがたいですが、そのようですね。わかりました。」

水科は満足そうに答えた。
「それはとりあえずよかったです。アナタの記憶はこれから少しづつ戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません。身体上は健常ですので、これから生活するのに何か支障があるという事は全くないハズです。何か体の違和感や異常があれば必ずすぐにお知らせ下さい。どんなささいな事でもです。」

「・・・わかりました。何かあったらお知らせします。」
と、答えるのが精一杯だった。
本音は少し期待していたのだけど、やはりだめだったか・・・。

それでは失礼しますと、席を立った。

またあの女性がエレベーター前にて待っていてくれた。

「お疲れさまでした。」
にこやかに迎えてくれる。

「そういえば、アナタのお名前はなんと言うのですか?」
今後もまたここには来るだろう事を考え、聞いてみた。

「はい。私は飯島久美子と申します。」


・・・・・!

久美子。


「田中純という名前に覚えはないですか?」
俺はとっさに口から言葉が出ていた。


少しの間があった後「いえ?存じませんが・・・。」と彼女は答えた。

偶然・・・なのか。


病院を後にし、真由美との待ち合わせ場所に向かった。

待ち合わせ最寄りの駅に着いた頃には、すっかり陽も落ちかけて空は赤く染まっていた。

早く着きすぎたな・・・少し本屋で時間でも潰すか。

先の本屋に向かって歩き出すと、不意に車道の方から車のクラクションが聞こえた。

その瞬間、記憶がフラッシュバックしてきて、俺はその場にしゃがみこんだ。

車道にいる女の子、迫る大型車、俺は弾かれた。

気がつくと、脂汗でびっしょりになっていた。

「大丈夫!?」後ろを振り返ると、真由美がいた。

俺は立ち上がり頭を振った。
「大丈夫。ちょっと目眩がしただけだから。」

「そう?本当に大丈夫なの?顔・・・真っ青よ。少しどこかで休みましょう。」
心配そうな顔でずっと俺を覗き込んでいる。

「いや・・本当にもう大丈夫だよ。これから白鳥家に行くんだろう。向かおう。」
俺は無理に平静を装って歩き出した。

真由美は後ろから小走りで追いかけてくる。
「もう。本当に無理しないでね。病院はどうだったの。」

また電車に乗って移動しながら、俺は病院での事をかいつまんで説明した。

「そう・・・じゃああまり新しい事はなかったのね。とりあえずは現状維持・・・か。」
窓の外を見ながら真由美は言った。

「まぁ、そんなに悲観する事はないよ。ゆっくりやっていくさ。」
これ以上心配かけてもしょがないと思った俺は、明るい笑顔を作って答えた。



そう。

目を覚ましたあの日から、どんどんと状況はわかってきたし、めまぐるしく変わって行った。

でも・・・やっぱり俺にとっての過去は現実だったんじゃないかという気持ちは拭えない。
拭えないけど、ひとまずは俺の心におさめておいた方が良さそうだ。

俺の感では、絶対に水科は何かを隠している。
今日検査したにしては、答えが明確で説明が流暢すぎる・・・まるで予め用意されていたみたいだ。
昔からとくに取り柄もない俺だけど、ここぞという時の感だけは当たっていたからな。

だからあえて今朝の夢の話しもしなかった。

まずは白鳥の事をよく知ろう。
きっと俺が何も知らないままでは、矛盾もなにも発見できない気がする。

家の事、親の事。

さすがに親には水科から説明がいっているみたいだが、何て言うのだろうか。
普通の親ならば落ち着いていられないくらいに心配しているハズだが・・・どうもその気配はない。

俺が夢の中でシンクロした仁の心から感じた親への感情は・・・最悪に近いものだったが・・・。

それも実際会ってからだな。

人がなんと言おうが、実際にその人に会って触れ合って、今まで俺はすべてを判断してきた。
それはこれからも変わらない。


「仁くん、大丈夫?そろそろ着くよ。」
真由美に声をかけられて我に返った。

「うん。また付き合わせて悪いな。自分ちなのにな。」

「しょうがないでしょ・・・だってわかんないんだから。そんな事気にしないで。」
真由美はニコリと笑って言った。

「さぁ行きましょう」

電車を降りて少し歩くと、真由美は振り返った。

「ここよ」

その建物を前にして俺は絶句した。
でかい家だろうと思っていたけど・・・家っていうより・・・どこまで敷地なんだコレ。

すでに気が滅入ってきたけど、逃げてはいられない。

門の前にあるインターホンを押して来訪を告げた。


俺の記憶では、過去1回だけこんなところの門をくぐったことがある。

それは、バイトをしてたときに宅配で行った政治家さんの家だった。
2度と縁がないだろうなと思っていたら、まさかまたこの規模の門をくぐるときが来るとは。

しかもそれが自分の家だとは、その時夢にも思わなかったな...と考えて俺は少しおかしくなった。


人生ほんとわかんねーもんだ。


つづく

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/10/24(日) 10:48:25|
  2. HERO【長編】
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

色んな秘密が見え隠れしていて・・・楽しいです。

最近ちょっと時間に追われているので、ゆっくり読ませていただきますね。

朝晩すっかり冷え込んできましたから、どうぞお体大切になさってくださいね・・・
またどこかでお会いできることを願いつつ・・・では
  1. 2010/11/30(火) 10:44:18 |
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  3. 一恵 #-
  4. [ 編集 ]

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