beat sb hollow

ただひたすらに戯言を

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

HERO 8話【長編】

今までのお話し

HERO 1話

HERO 2話

HERO 3話

HERO 4話

HERO 5話

HERO 6話

HERO 7話


HERO 8話


初夏の晴れた気持ちのいい午後。
オレはコーヒを口に運び、真由美と向かい合っていた。

オープンテラスっていうのか?
洒落た言葉はよくわからないけど、暑くも寒くもない心地よい陽気のときは、確かに太陽の光をあびながらくつろぐのは悪くないな。

青々とした空にタバコの煙を吐くオレには似合わない言葉だけれど。

とりあえず、昨日の水科の説明を、かいつまんで真由美に説明した。

もう1人とんでもない奴がいて、そいつを何とかしないといけないって事は伏せておいた。
心配するだけだしな。

ただ、この体のことは黙っていても、いずれわかってしまう。
その辺を考えてうまくボカして説明したつもりだけど・・・自信はない。

「で、なんでそんな事にならなきゃいけないのよ」

あからさまに腑に落ちないという顔で彼女はオレを問いつめる。

「だから・・・そうしなきゃ死んでたんだってさ。ほんとだって。」

オレはタバコの火を灰皿でもみ消して答える。
表情が落ち着かない・・・ウソって大変だな。

「ま・・・いいや。これ以上聞いてもどうせ同じなんだろうし!それより、私はいろいろ用事があるから行くけど、今日から学校もキチンと行くのよ。詳しい話しは夜にきっちり聞くから!」

「わかってるよ。今日からはとりあえず以前の通りに生活を始めるよ。」

立ち上がった真由美は伝票をとり、歩き出そうとした。

「おい待てよ。オレが払うよ。」

「いつもごちそうになってたからいいの。それに仁くん、アナタはお金を持っているっていっても、それはアナタが稼いだお金じゃないんだからね!大事に使わないとダメよ。」

「そうだな・・・ごちそうさま」

満足そうに頷いて、真由美は出口に歩いて行った。

なんか・・・むかし久美子にも同じことを言われた事を思い出す。

学生・・・か・・・。
正直、高校を出てすぐに働き出したオレには、大学生がどういうものなのかよくわからない。

オレの家はどちらかと言えば金もなく、贅沢もできなかったが、不自由もなかった。
きっとそれは、親が一人っ子だったオレに不自由をさせないように頑張っていてくれたのだろう。

若いオレはそんな事さえわからなかった。
くだらない事で警察のお世話になったり、学校を停学になったり、迷惑ばかりかけていた。

当時は、自分は今しかできない事をやっている・・・なんて言う履き違えた恍惚感すら感じていた。

親が新しい洋服なんて来ている所を見た事がなかったなぁと気付くのは、早くして両親を亡くしてからだった。

幸いにも、2人とも死に目には立ち会えた。

母が病気で亡くなる間際、さんざん問題起こして迷惑かけて泣かしたオレに、彼女がかけた最後の言葉は「ありがとね」だった。

笑顔でそのまま目を閉じた。

握ったその手は、肌荒れでガサガサだった。

今までずっと働いてきた手だった。

今までずっとオレを守ってきたその暖かい手を、ずっと握っていた。

涙をこらえる事ができなかった。


その後、親父は張り切って家事をこなし、オレに話しかけるようになった。

毎日うるさいほど賑やかだった。

だけど、夜になると一人で酒を飲む後ろ姿を見て、それはカラ元気なんだとオレは悟った。
1人の人間のあんな寂しそうな背中は、未だに見た事がない。

そんな親父に進学したいなんて言えるハズもなく、オレは東京に出て就職した。

初の給料で酒を送ってやったときは、たいそう喜んでいた。

そんな親父もあっけなく病気で逝ってしまった。

最後病室で、母ちゃんのガサガサの手の温もりを思い出し、オレは泣きながら「2人とも、もっと自分の事に時間を使えばよかったんだ。」と言った。

親父はニコリと笑って、「いい人生だった。」と言った。

それからだんだん目を開ける時間が少なくなっていった。

最後の言葉は、とぎれる声で「なんでもいい。幸せになれ。」だった。

ウチは貧乏な自営業だったので借金もわずかながら残っていたが、家と土地を売り、全て返した。

そのときは、バタバタと手続きをしていくなかで、寂しさを感じる暇はなかった。

遺品整理をしていたときに、押し入れの中から木箱に入った酒が出てきた。

それは未開封のままの、オレが初めての給料で買った酒だった。

飲めばよかったのに。

いくらでも買ってやったのに。

オレはそのラベルを見つめながらしばらく泣いた。

生まれ育った街。

もう、この街にはオレの帰るところは無くなったのだ。

家を売らなくたって同じだ。

人は、そこに建てられた建物に帰るんじゃない。

帰る場所ってのは、建物じゃなく、人なんだ。


なんでこんな昔のことを今思い出すのだろう。

いや、ひょっとしたら、これすらただの作られた記憶なのかなぁ。

親父、母ちゃん、オレ、アンタたちの子供じゃなかったのか。



・・・まあ、いい。

どちらにせよ、もうこの世にはいない。2度と会う事はできない。

それならば、ウソだろうと本当だろうと、オレの両親はアンタたちだ。

それでいいよな?


気がつくと、そろそろ学校に行く時間だ。

面倒くさいけど、行かないとな。
何を成すべきかまだわからないけど、とりあえずできる事をやって行こう。

道を歩いていたら、何やら騒がしい。

脇を見ていると、なんかチンピラみたいな若いのが、サラリーマンと揉めている。

ざわざわと話しながら、遠巻きに見ている群衆。

気になりつつも、自分に被害がない距離を保つ。

オレもその中の1人、どうみても普通のサラリーマンに若いのが因縁をつけているのだが、助けに行こうなんて思わない。

実際には、誰かを助ける為に自分がどうされてもいいなんていう人間は、なかなかいないものだ。

誰だって最悪の事態を想像した場合、怖いし足がすくむ。

でも、今のオレは水科の話しが本当ならば、あの程度のチンピラなんてどうとでもできるハズだった。


オレは立ち止まって遠巻きに見つつ、迷っていた。

相手の若いのは、見知らぬサラリーマンに因縁ふっかけるくらいだから、オレが止めに入っても必ず矛先をこちらに向けるだろう。

明らかに凶暴そうな顔に、はっきり言ってオレはビビっていた。

しばらくすれば警察も来るだろう。

そう思っていた。

見ていたら、たぶん20代くらいであろうそのサラリーマンは絡まれつつも毅然としていた。

「僕は何も悪くないじゃないか!」そう叫んだ。

と、チンピラの膝蹴りが男のどてっ腹に入り、苦しそうに男はかがんだ。

チンピラはさらに容赦なく蹴りを浴びせ始めた。

「誰かが警察呼んだと思ってんだろーが!あーん!知ったこっちゃねーんだよ!テメーなんか誰も助けちゃくんねーんだよ!」


誰も助けちゃくんねー。


オレは、気がつくと男の前に出ていた。

「なんだテメーは!コラァ!!」

胸ぐらを掴んででかい声で威嚇してくる。

「もう・・・やめたらどうだ。」
オレは静かに言った。

その瞬間、チンピラがパンチを繰り出してくるのを感じた。

そう。

これは理屈ではない。

見えたのではなく、感じた。

目の前に迫った拳をかわした。

下から蹴りが来ている。

それを手で軽く払った。

そのまま相手の腹を目がけてパンチを出しかけて・・・止めた。

「逃げてんじゃねーぞこの野郎!」

血走った目で相手はオレを睨みつけている。

その後も、オレは、攻撃できなかった。

オレは相手の攻撃をよけずに全て食らった。

顔があつい、痛い。

痛ぇよ。

周囲を見ると、みんな同情の顔を浮かべながら、それでも目が合うとすぐにそらした。

そしてまた同情の目でこちらを見るのだ。


気がついたらオレは路上に寝転がり、チンピラはオレにツバを吐いて去って行った。


「大丈夫か!アンタ!」

さっきまで遠巻きに見ていたおじさんが1番に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですよ・・・それよりも・・・」

絡まれていたサラリーマンは、よろよろと起き上がり、オレにハンカチを差し出して言った。
「ありがとうございました。アナタはすごい人です。」

「すごい・・・?オレは何もできなかった。ただやられただけ。助けてあげれなくてすまない。」
心からそう思った。

「そんな事はない!あの状況で助けに入ってくれる事で僕がどれだけ救われたか・・・!僕の心がです。」

腫れ上がった顔で目をキラキラさせて言ってくるその男を見て、オレはあっけにとられた後、吹き出した。

「アンタ・・・変わった人だなぁ」

「そうですかね」と、ニコっと笑った男の顔を見たとき、オレも少し救われた気がした。

「何かお礼を・・・名前を聞かせて下さい!」

そう言われたオレは、立ち上がって答えた。

「オレは・・・田中純。お礼は、また今度会う事があったら、なんかラーメンでもおごってくれればいいよ。」



あー痛ぇ。

足を引きづりながら歩いていたオレは、公園のベンチに腰を降ろした。

あんなにビビッてたのに、なんでオレは行ったんだろう。

昔からオレは、小心者なのに、いざってときになると急に腹をくくるクセがあるからな。
そうなるとヤケに冷静で頭が冴える。

小心者のままでいりゃーいいのに、それで余計な事に首突っ込んで何回痛い目にあったことか。

しかし・・・確かに簡単にあのチンピラをおとなしくさせる事はできただろう。

思ったよりも簡単だ。

アイツも相当ケンカ慣れしたヤツだろうが、それがあんなにスローに見えるとはな・・・。

なんで攻撃を止めたかと言うと。

怖かったからだ。

こないだあの通り魔を吹っ飛ばした瞬間、オレは【殺した】と思った。

結果的に助かったみたいだけど、内臓破裂、全身骨折・・・車にでも跳ねられたみたいだ。

それが脳裏をよぎった。

加減がわからない・・・もし殺してしまったら。

恐怖で攻撃できなかった。

自分が殴られてる方がどれだけラクか。

でもそれであのサラリーマンも、結局は・・・。

そこそこで満足して立ち去ったからいいが、あれがもっと頭のイカれた野郎だったら殺されかねなかった。


オレは、自分の力の使い方を学ばないといけないのかもしれない。


気がつくと全身の痛みは消えていた。

もう治ったのか・・・改めてすごいな。

オレは彼を助けることはできなかった。

けど、彼はオレに心底感謝していた。


心か・・・。


まぁこれからの課題だなぁ。


さて。


ちょっと遅れたけど、学校に行くかな・・・。


チンピラに絡まれてて行かなかったなんて行ったら、アイツに何て言われるかわからんからな。


オレは学校へ向かい歩き出した。


歩きながら、ボッコボコにやられて地面に這いつくばってツバ吐きかけられるヒーローなんて・・・サマになんねぇなぁと思ったら、笑えた。


つづく
スポンサーサイト

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/11/30(火) 00:55:20|
  2. HERO【長編】
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<連穂選んで種を採れ | ホーム | HERO 7話【長編】>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://donb.blog48.fc2.com/tb.php/256-539f9b84
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

take-hiraoka

Author:take-hiraoka
Dog on Backseat

Twitter

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最近のコメント

最近の記事

カテゴリー

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。