beat sb hollow

ただひたすらに戯言を

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HERO 21話【長編】

今までのお話し

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HERO 21話

-田中純-

真っ白な病室の窓から、夕日の赤が差し込んでくる。

「色々と・・・ありがとうね。白鳥くんには本当に迷惑をかけちゃった」

そう言う久美子の首には、痛々しい包帯が巻かれている。
でも、思ったよりも元気そうで安心していた。

「迷惑をかけたのはこっちだよ、本当にごめん。でも、とにかく無事で良かった・・・」

俺は窓の外に目をやりながら答えた。
正直一気に色々とありすぎて、うまく彼女の目を見て話す事ができない。

あの事件は、暴漢に襲われたと言う事にしてある。
会話の内容からしてあきらかに不自然ではと思ったのだが、彼女は記憶が戻った際に色々と混乱していた事もあり、一応は納得してくれた様だ。

そう。

彼女は、失っていた全ての記憶を取り戻したままだ。
オレは彼女の中の【田中純】の記憶を消して欲しいと水科に頼んだのだが、今の弱った体力と精神状態では、危険度が高すぎて記憶操作などを行う事はできないらしい。
どっちにしろ回復を待ってからでないと、無理って事だ。

だから、話しづらい。

幸い、彼女は白鳥仁=田中純と言う事は知らない。

記憶を戻した際に、田中純が交通事故に合ったという事まで思い出しているのだ。
だから、田中純が存在し得ない事も、当然知っている。

あれは一時的な記憶の混同で、白鳥仁を田中純と間違えてしまったという事で納得してくれた様だ。

だからと言って、全ての記憶を取り戻した彼女と向かい合う事は、オレにとっては精神的につらい。

全てあの頃のままの彼女と、オレは【ただの知り合い】として接しなければならないのだ。
大切な人を亡くしてしまった彼女と、第三者として。

オレはここにいるよ、と言えたら。

全てをここで言えたらどれだけ楽だろう。

しかし、オレはもう間もなく消える。

そして彼女はオレの事を忘れる。

ここで全てを伝えたところで、先へ続く未来はないのだ。

「・・・白鳥くん?どうしたの?やっぱりまだどこか痛いんじゃない?」

久美子の声にふと我に返った・・・いかんいかん、どれだけ物思いにふけっていたのだろう。

「いや。全然もうだいじょうぶだよ。あれ実は、派手にやられてた様に見えたと思うけど、大した事ないんだ」

「そう・・・?そうは見えなかったけど。白鳥くん、何か目の色が緑がかってるけどそれどうしたの?」

オレはハッとして横を向く。

「あー。あーこれね。カラーコンタクトって奴つけてんだよ。彼女がかっこいいって言うからさ。ははは」

久美子がオレの横顔をじっと見つめているのが、何となくわかる。
疑われてるかな・・・なんでとっさにうまい言葉が浮かばないのか。
体ばっか強くても頭はさっぱりだなHEROよ。

「そっか。彼女さんに言われてなんてかわいいとこあるじゃない」

意外にも久美子はにこりと微笑んでそう言った。
ほ・・・ごまかせたのか?

「まぁ、今はとにかくゆっくり休んでよ。ここに居れば何も心配いらないからさ。じゃあ、オレは行くよ」

「ちょっと待って・・・こっちに来て」

「え?」

ベッドの横まで行くと、彼女は優しくオレの顔を両手で包みこみ、オレの額と自分の額を合わせて来た。

「白鳥くん、お姉さんの言う事だと思って2つだけ約束して。1つ目、自分を大切にしなさい。あなたの大切な人を思うくらい、自分の事も大切にしてあげて。きっと、あなたは自分の大切な人たちの為に自分を傷つけてしまう人だから・・・」

すぐ目の前に久美子の顔がある。
オレは彼女の真剣な眼差しから、目をそらす事ができなかった。

「そして・・・2つ目。絶対に大切な人の前からいなくならない事」

オレは、息がつまりそうになった。
言葉が出てこない。

久美子はオレの顔から手を離し、ゆっくりとまた横になった。

「なんてね。余計なおせっかいなんだけど。でもね、後はもう何も言わないわ。男の子だもんね。何をしようとしてるのかわかんないけど、どーんと行ってらっしゃい」

オレは、涙がこぼれそうになるのをどうにかこらえながら、病室の扉へ向かった。

「うんわかったよ。また・・・来るからね」

扉を開けて出ようとした時、後ろから声が飛んで来た。

「私の事はいい。でもね。絶対にあなたは【おかえり】って言ってくれる人の所に【ただいま】って言って帰るのよ。約束だよ・・・」

最後に振り返り、久美子の目をまっすぐに見た。

儚げで・・・それだけど強い目。

オレは・・・。

「別にどこにもいかないよ。久美子・・・さんもほら、あの優しい店長さんが心配してるから、早く帰ってあげてね。久美子さんは、きっと幸せになれるよ。きっと・・・」

思い切り笑顔で言い、病室を出た。

頬を暖かい雫が伝う。




****************************************




-久美子-

病室から足音が遠ざかる。

涙が、ほおを伝う。

あなたは、昔から何も変わってない。

馬鹿で鈍感、嘘が下手。

あなたがつく嘘は、いつも優しい嘘。

人を思いやるあまりに、すぐに強がるんだから。

でもね・・・それじゃあ騙せないよ。

事故であなたを失い、私も今まで過去を忘れていた。
その間に何があったのかはわからないけどね。

あなたは確かに存在した。

それだけで、今はいい。

あなたに【おかえり】を言う役割が、私でなくなってもいい。

今あなたの一番近くに居る人は、ちゃんと寝起きの悪いあなたを朝起こしてあげてるのかな。

何を食べるのにもおみそ汁を欲しがるあなたに、ちゃんと作ってあげてるのかな。

好きな物ばっかり食べるあなたに、うまくお野菜とか食べさせてあげてるのかな。

やっぱり少し寂しいけれど・・・もし笑顔であなたを迎えてくれる人がいるのなら、それでいいか。

あなたは嘘が下手。

きっとこれから何か大きな事へ向かうのでしょう。
顔にわかりやすく出てたよ。

でも、誰の為だろうが、どんな事だろうが、あなたは帰って来なくてはダメ。

今まで当たり前の様にあった【ただいま】、【おかえり】という言葉が無くなる事が、どれだけせつないのか。
もう、誰からもそれを奪っちゃだめよ・・・。

私は、心配してないよ。

あなたはきっと帰ってくる。
照れた笑いを浮かべながらね。

私はね。その姿を見かけるだけでもいいから。

帰ってくるんだよ。

やさしい純。





****************************************




-水科-

とある狭い居酒屋。
私は、少しぬるいビールを一息に飲み干す。

「な。うめぇだろ?」

満面の笑みを浮かべて仁くんがこちらを見ている。

「狭い店で床は油でヌルヌルするし、ビールは温いし、焼き鳥は固い。正直言って、なんでこんなにおいしく感じるのかが不思議な程ですよ」

私は少し固い焼き鳥をほおばりながら言う。

「雰囲気ってやつだよ。雰囲気。しかしカタいよカタい。こんな所で科学者みてーに分析しなくてもいいだよ」

「・・・そうですね」

「え?聞こえねーよ!こういう所では、周囲のおっさんに負けずに声張るんだよ。ほら、周りのおっさんに負けない声張って注文してみなって」

私は手をあげて「すいませーん!」と叫んだ後、咳き込む。

「はっはっは。普段から声ださねーからだよ。でも、気持ちいいだろ?」

「そうですね。こんなうるさい所で気遣いも何もないですからね。逆に自分をさらけだすのが普通な気がして来ます・・・しかし仁くん、明日は・・・」

「いいから飲め飲め!ほらほら」



それからとめどなく、私たちは飲み、喰い、話しをした。

同年代なのに当時のアニメも漫画もしらない私に、仁くんはからかいながら色々教えてくれた。

気がつけば、初恋の事、失敗した事、嬉しかった事、誰にも話した事のない自分の人生を、私は臆面もなく話していた。

仁くんは時には大笑いし、時には真面目に、全部聞いてくれた。

さんざんからかわれたのだが、悪い気はしなかった。

友達というものは、こういうものなのかなと言ったら、また大笑いされた。

私も、涙を流しながら大笑いした。

「じゃあ、ちゃんと帰るんだぜ」

仁くんに抱えられながら、タクシーに乗った。

「仁くん・・・明日は・・・明日は・・・」

酔っぱらいすぎてうまく下が回らない私に、仁くんは最後に真面目な顔をして言った。

「もう、なるようにしかならないさ。今日は本当に楽しかった。今までありがとうな・・・じゃあ、明日!」

バタンと戸を閉められる。

タクシーに揺られながら、仁・・・いや純くんと出会ってから今までの事を思い出していた。
短い間なのに、走馬灯のようにいろいろと蘇ってくる。

私も、確かに彼と出会い変わった。

彼の優しさ、強さ、人間くささ、どれも今までの私には全くなかったもの。
いつも触れ合うたびに新鮮な驚きの連続だった。

彼は、明日の闘いを最後に消えるつもりだ。
再び久美子さんの記憶からその存在を消して・・・。

実は彼に言っていなかった事がある。

今日彼が面会を済ませた後、私は久美子さんにお願いをされた。

「もう2度と私から彼の存在を奪わないで欲しい」と。

自分が記憶を消された確証があった訳ではないのだろうが、きっと彼女は何かに感づいている。

彼女は、自分の所に戻って来なくても良い言った。
これから何をして、どうなろうとしているのかわからないが、彼が無事に帰ってくるだけで良いのだ、と。

「ただ、離れるにしろもう一緒にいられないにしろ、自分と彼が一緒に生きて来た時間は自分の大切な、幸せな人生の記録。一番大切な時間を心から失って、何の為の人生なのでしょう」

彼女のその言葉に、私は何も言えなくなった。

純くんと久美子さん。

お互いに自分の事はいいから相手をと、必死に願う。
なんと強い結びつきなのだろうか。

純くんには言えないが、私は決意が固まった。

私も、全身全霊をかける。
うまく行く自信など、全くない。無謀な道かもしれない。

それは人の為なんかじゃない。
ただ、私がそうしたいだけだ。

純くんは怒るのかもしれないな。

しかし、必ず。

必ず・・・。


タクシーから降りた私は、こみ上げて来た吐き気に耐えきれず、道ばたで嘔吐した。

酸っぱい胃液がこみ上げ、泣きながら、鼻から口から汁を垂れ流しながら私は笑っていた。

慣れていないのにあなたがこんなに飲ませるから。

全くあなたと言う人は、自由で、楽しくて、優しくて。

私の唯一の友人、田中純。

今まで科学一筋で生きて来た全人生をかけて、あなたは私が守る。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/02/02(木) 11:14:25|
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